坐骨神経痛を東洋医学的にみると腎経という経絡(ツボの経路)の虚ととらえます。その要因として、特に「冷え(寒)」によるものと考えます。
中国古代の思想に五行思想があり、いろいろな事象を5つに分類します。臓を「肝」、「心」、「脾」、「肺」、「腎」に分類し、腑をそれぞれに対応して「胆」、「小腸」、「胃」、「大腸」、「膀胱」に分類します。それぞれの臓腑が嫌う外的な要因をこれまたそれぞれ「風」、「暑」、「湿」、「燥」、「寒」に分類します。「寒」が「腎」、「膀胱」のバランスを崩す要因のひとつと考えます。
一方、五行思想には「相生」という考え方があり、「肝」→「心」→「脾」→「肺」→「腎」→「肝」の順にその隣同士は母子関係があり、治療においてもお互いの経絡を使います。
これらの観点から、坐骨神経痛には「腎経」、「膀胱経」、「肝経」、「胆経」のツボ、坐骨神経痛の特効ツボ及び反射ゾーンを使います。
1. 坐骨神経痛の定番のツボです。腰に働きかけます。
・主に坐骨神経に沿った「膀胱経」の経絡を使い、下半身の血流の改善を狙います。
・痛みのあるツボだけを狙わず、基本的なツボを全て使います。
・他の人、特にご家族の力を借りて、ツボ押しをやってもらうことを勧めます。
・ご自身でやる場合、2本のツボ押し棒を両手に持ち、押します。
・痛気持ちよいところで止めてください。
①右図「胰兪」 いゆ (第八、第九胸椎棘突起間脊柱の傍、指2、3、4本、~(→臨床上はそれぞれの圧痛を探る))
ストレスによる疲労がたまるとこのツボに著名な圧痛があります。「膵兪」ともいいます。
「腎兪」 (第二、第三腰椎棘突起間脊柱の傍、指2本)
背中から触れる第十二肋骨の先端を結んだ線になります。
「志室」 (腎兪の傍、指2本)
「気海兪」(第三、第四腰椎棘突起間脊柱の傍、指2本)
「大腸兪」(第四、第五腰椎棘突起間脊柱の傍、指2本、腸骨の上端の高さ)
「腰眼」 (第四、第五腰椎棘突起間脊柱の傍、指4本強、腸骨の上端の高さ)
「関元兪」 (第五腰椎棘突起下縁と同じ高さ、後正中線の外方指2本)
次項の「小腸兪」、「膀胱兪」と続きます。
2. これも定番のツボです。仙骨、臀筋、足に働きかけます。
①仙骨孔にあるツボを2箇所押します。臀裂(いわゆるおしりの割れ目)から指1本強横です。仙骨孔は神経の通り道であるため、やさしく押します
「上髎」 じょうりょう (仙骨部第一後仙骨孔)
第一後仙骨孔は次の「次髎」から擦上すると陥凹部を触れます。
「次髎」 (仙骨部第二後仙骨孔)
上後腸骨棘(じょうこうちょうこつきょく)の内側斜め下に孔があり、押すとさしこむような痛みがあります。鼠径部中央の線の真後ろで臀裂から指1本強横に陥凹部があります。
②臀裂から指2本横を上から2箇所押します。
小腸兪 (第一後仙骨孔と同じ高さ、正中線の外方指2本)
「上髎」と同じ高さです。
膀胱兪 (第二後仙骨孔と同じ高さ、正中線の外方指2本)
「次髎」と同じ高さです。
③臀裂から指4本横を上から4箇所押します。
次のようなツボがあります。
「胞肓」 ほうこう (臀部、第二後仙骨孔と同じ高さ、正中仙骨稜の外方指4本(次髎の外方指3本))
「秩辺」 ちっぺん (第四後仙骨孔と同じ高さ、仙骨裂孔(仙骨の下端)の外方、指4本)
④臀部の応用範囲の広いツボを押します。
「臀中」 でんちゅう (大転子から坐骨結節の線を底辺とした一辺で三角形を作り、その頂点)
上記の「秩辺」の下で少し外側の圧痛点に取ります。
「環跳」 (大腿骨大転子の頂点と仙骨裂孔を結ぶ線の大転子から1/3)
大転子から指4本内側の圧痛点に取ります。
「承扶」 (臀部、臀溝の中点)
⑤側臥位で施術します。
「坐骨神経点」 (上後腸骨棘と大転子を結んだ線の中点から指2本弱下)
近辺も含めて圧痛点を探ります。 重要なツボです。
加えて、上の図のピンクの線に沿って押します。
以上のツボを自分で施術する場合は、ボールを使います。ボールはバウンドボール、テニスボール、ソフトボールどれでも結構です。床の上にボールを置き、おしりをその上に置き体重を乗せます。
⑥右図「殷門」 いんもん (おしりにできるしわの中央から指4本+4本下)
「承扶」と次の「委中」を結ぶ線の中点より親指幅1本上です。棒状の張り、凝りを目安とします。
「委中」 (膝窩横紋の正中)
「腰背の病は委中に求む」といわれる名穴です。初めは軽く押し、次第に強めます。
「委陽」 (膝後外端、大腿二頭筋腱の内側、膝下横紋上)
「委中」の外側になります。「委陽」の指2本下も押してください。
「承筋」 (「委中」(膝窩横紋の正中)より指4+3本下)
腓腹筋の最も盛り上がったところに取ります。
「承山」 (膝裏の横筋(横紋)と外くるぶしの先端と同じ高さのアキレス腱を結んだ中間)
外くるぶしの先端に手の中指を当て、手を広げ親指が当たったところで中間の見当をつけます。腓腹筋の両頭間でアキレス腱を圧上して指の止まるところです。
⑦右図「陽陵泉」 (腓骨小頭(膝の外側、斜め下の小さな骨)の前下際)
「崑崙」(足の外踝の後方)
指頭で押すとひも状のぐりぐりとしたものに触れます。人差し指または中指で下方に圧力をかけ、外踝のほうに滑らせるように動かします。
⑧右図「風市」 (大腿部外側、直立して腕を下垂し、手掌を大腿部につけたとき、中指の先端が当たる腸脛靱帯の後方部、圧痛点にとる)
中指でゆっくりと揉みほぐすようにしてください。腸脛靱帯はやや膝を屈し、大腿をやや内旋すると現れやすくなります。「風市」の位置より5~10cmぐらい上でさらに後方のエリア(右図斜線部分)にも強い圧痛を感じる場合もあります。
⑨上記「風市」から下の経絡(腸脛靭帯)及び右図腓骨に沿った経絡に痛みが走る場合は、緑色の線に指を当て、後方または前方にスライドしてください。
3. 足の反射区とツボで治す方法です。
①右図「湧泉」 (足の五本の指を内側に曲げた時にできる凹んだところ)
腎虚に最も適したツボです。
なお、中国では足の中心線で指の付け根から踵までの長さの指の付け根から1/3のところにとりますが、ここでは少し上のくぼんだところとします。
先天の気を回復します。
「副腎ゾーン」 (「湧泉」の真下)
「腎臓ゾーン」 (第二、第三中足骨の近位端でリスフラン関節線の上)
「脊椎ゾーン」 (第一中足骨内側から第一楔状骨、舟状骨、距骨内側のアーチ部分)
いったん垂直に押しこみ、踵の方に流します。圧痛点を15秒ぐらい長押しします。
②次に踵全体、外踝の下、腓骨に沿った線が対象です。座骨神経痛はよく再発します。すこし痛みが出てきたときに次の療法がお勧めです。軽いうちに治ります。
右図「骨盤部ゾーン」 (外側の踵の大部分)
斜線部分全体を揉んでください。特に外踝の下、斜め下をしっかり施術してください。痛いですが…。 手法としては、踝の際(赤丸)に親指の先を入れ、斜め下の方に引きはがします。または、近辺も含めて3カ所ぐらいピップエレキバンを貼ります。よく効きます。
右図「大腿部(外側)ゾーン」 (腓骨上)
腓骨上の圧痛点を探り、お灸をするかピップエレキバンを貼ります。
③ 足の薬指の指節骨、中足骨骨間にしっかり手当をしてください。
薬指を足先且つ外側に向けて揉みながら伸ばしてください。
次のツボを押し揉んでください。且つツボを結ぶ線の中足骨間を広げるように押し揉んでください。さらに、薬指、中指の中足骨間を押し揉んでください。冷え解消点として定評があります。
「侠𧮾」 きょうけい (足背、第四、第五指間、みずかきの近位、赤白肉際)
「足臨泣」 (第四、第五中足骨底接合部の前、足の薬指と小指の間を押し上げて止まるところ)
4. 坐骨神経痛に定評があり手軽にできる手のツボです。
①右図「外関」(手首の関節の横紋中央から指2本)
腕を回外してとります。手首の関節の横紋中央から橈骨と尺骨の間を、指を滑らせて指が止まるところです。皮膚に直角に押し、5分間持続させます。
②右図「坐骨神経点」 (甲側で薬指の中指指節関節の小指側)
坐骨神経痛の特効穴です。やや強めに押します。
「腰腿点2」 (甲側で薬指と小指の間の溝を手首の方に向かってたどり止まるところ)
③右図「坐骨神経」 (小指全体)
坐骨神経痛の特効ゾーンです。小指全体を押し揉みます。
5. 症状がかなり取れてきてはいるものの時々坐骨神経の走行に痛みが走ったり、違和感が出たりするときがあります。そのようなときの対応です。
「八宗穴(八総穴)」という経絡をまたがった病症を治す応用範囲の広い八つのツボがあります。「八宗穴」は八つのツボを二つずつ組み合わせて使います。座骨神経痛の場合はそのなかから次の3セットを使います。手法としては、この場合それぞれのセットの足のツボ→手のツボに順に指圧をします。指圧の時間は一つのツボを長押しで30秒ぐらい押し続けます。
①「足臨泣」と「外関」の組み合わせ
右図「足臨泣」(第四、第五中足骨を圧上して指の止まるところ)
「外関」 (腕関節背側横紋の中心(やや小指側)から上方指2本、橈骨と尺骨の骨陥)
腕関節横紋から指で滑らせていくと皮膚のたるみで指が止まるところです。親指で一旦押し込み、指先方向に引っ張ります。
②「申脈」と「後渓」の組み合わせ
右図「申脈」 (外踝尖の直下、外踝下縁と踵骨の間の陥凹部)
外踝の直下指1本弱のくぼみに取ります。
「後渓」 (小指尺側第五中手指節関節の後陥中(近位側))
軽く握り、手掌横紋(感情線)の尺側端になります。
③「照海」と「列缺」の組み合わせ
右図「照海」 (内踝の直下の陥中)
内踝の直下、指幅半分または指1本強と二つ説がありますが、割れ目を狙い、圧痛点を探ります。
「列缺」(両手の拇指と示指のまたを交差させ、示指の先端が当たるところのくぼみ)
拇指の爪先で切り裂くように差し込みます。