風邪の初期の段階ではどの症状が進行するかわかりません。また、症状も変化します。そこで、症状の進行状況を見極めながら、治療方法を変化させていく必要があります。いずれにしても、初期の段階で手当てをすることは極めて有効です。それよりも大事なのは予防することです。
数日たって好転しない場合、必ず病院に行ってください。薬を飲みながら、補助的に手技療法を行うことで治りが早くなりますし、悪化しなくてすみます。
それからもうひとつ、体を休め、無理をしないことです。特に治りかけの時です。風邪が長引くかどうかの分かれ目になります。
胸に神経痛のような痛みがある場合は、肺炎を疑ってください。すぐに病院に行ってください。
いろいろなステージや症状ごとに列記します。夏風邪の対処は項番14を参照してください。
《豆知識》
・風邪の病態に基づく定義:風邪とはほとんどの場合、自然寛解するウイルス性の上気道感染症のこと。
・風邪を引き起こすウイルスは200種類以上あるとされている。医療機関ではほぼ同定(生物の分類上の所属や種名を決定すること)できない。
・風邪を風邪として診断する基本アプローチは、咳、鼻汁、咽頭痛の3領域の症状に注目し、風邪を4つ(典型的風邪型、鼻症状メイン型、喉症状メイン型、咳症状メイン型)に分類する。
・しかし、高齢者ではこの3症状チェックを正確に満たすいわゆる「典型的風邪型」の患者さんはとても少ない。感染しても症状を呈しにくい。特に鼻症状と喉症状はメインの主訴にはなりにくい。高齢者の咳症状メイン型は風邪ではなく肺炎が意外に多い。
・風邪に紛れた風邪以外を診断する基本アプローチは、熱のみ、倦怠感のみを「風邪」と診断しない。発熱+α(アルファ)に注目し、局所臓器症状不明瞭・高熱のみ型、微熱+倦怠型、発熱+頭痛型、発熱+消化器症状型、発熱+関節痛型、発熱+皮疹型、発熱+頸部痛型に分類できる。
・高齢者の細菌感染症Big3は「肺炎(誤嚥性肺炎)」、「尿路感染症」、「胆管炎・胆嚢炎」。
・多領域に及ぶ複数臓器の感染症状はウイルス感染の特徴である。細菌感染は原則として単一の臓器に1種類の菌が感染する。
・手指衛生と咳エチケットでずいぶんとインフルエンザ感染が予防できる。
(豆知識の参考文献)
・岸田直樹(2019)『誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた-感染症診療12の戦略 第2版』講談社.
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1. まず風邪の予防法です。
①貝原益軒の養生訓にもありますが、必要以上に厚着をしたり、暖房を強くしないこと、汗をかかないことです。気がもれるとして、戒めています。
②風邪のひきやすい方は、日常的に右図の足背、親指と人差し指の中足骨の間をしっかり手の指を入れるようにして押し込んでください。指圧棒でも結構です。但し、皮膚がむけないように注意してください。ここは上気道、気管支の反射区で、特に丸印のところの上気道の反射区を揉んでください。また、頸部リンパの反射区でもあります。
すでに風邪をひいているご家族の方がいらっしゃる場合は項番3の足背の第一から第五までの中足骨の間を全て指圧棒で押し込んでください。
③各指の爪の生え際も予防として有効です。特に、親指と人差し指です。
各指の爪の生え際(爪体の角から2mm弱)の6か所にあるツボです。内側から「少商」、「商陽」、「中衝」、「関衝」、「少衝」、「小沢」という名前がつけられており、総称して井穴と言います。
ツボは左側の図の○印に位置し、赤線のところを親指の爪の先端を使って断ち切るように押すか、チクチクと数回押します。一日何回でも押してください。
④腸を整えて免疫力を上げます。
「おなかを冷やさないこと」、風邪予防の鉄則です。冷えた場合はホッカイロまたは腹巻きで温めることです。
手技としては、右図の足裏の腸の反射区への押圧を勧めます。まず、大腸の反射区で、右足から左足での数字の順番に押してください。2と3のラインはリスフラン関節の少し下方(但し、第四中足骨基底部では同関節の上方)、5のラインは内髁と外髁を結んだ線になります。つぎに小腸の反射区です。斜めの線のエリアを押し揉んでください。
2. 次に風邪の初期に非常に有効な対処方法です。特にのどの痛みに効きます。風邪気味の時にこの段階で治すのが理想的です。
ツボ療法と同時に次のことを励行してください。寝るときは首にタオルを巻いて寝てください。さらに少し厚着をします。足首(すっぽり包むように)、ふくらはぎをレッグウォーマーで温めてください。
①手のツボです。強めに押してください。または、ピップエレキバンを貼り、刺激を続行させてください。
右図「合谷」 (手背、第二中手骨中点の橈側のくぼみ)
人差し指側にこねるように押します。
右図「感冒点」 (合谷の裏、裏合谷ともいう) →特にのどの痛みに効果
「合谷」と挟むようにして、こねるように押します。ピップエレキバンは貼っても取れやすいところなのであまり勧めません。
右図「少商」(拇指橈側爪体の角を去ること2mm弱)
このツボものどの痛みに効果があります。ときどき爪で刺激をします。
②第七頸椎から第四胸椎までの棘突起の下縁(椎骨間のくぼみ)及び棘突起の下縁の指1本弱外側を探り、強い痛みを発する箇所を3~5回程度押します。症状が軽くなるにつれて痛みが和らいできます。
上記の箇所の中には、大椎、陶道、神道、定喘、華佗夾脊の名前がつけられています。
第七頸椎棘という言葉が出てきましたので、ここで説明しておきます。第七頸椎棘は、首を前に曲げると首と背中の付け根に飛び出る椎骨で、丸く一番大きく見える骨です。棘は椎骨の後端が隆起し、突出したもの(突起)を意味します。人によっては、第六頸椎が大きく見える人もいます。その場合は、次の方法で判別します。
第七頸椎は頸椎(首の骨)の一番下で、髪の生え際から指4本下の大きな椎骨です。次の胸椎(背骨)の一番上との違いは首を縦横振ってみると動くのが頸椎、動かないので胸椎です。また、首を後ろに倒すと奥に引っ込むのが頸椎です。動く椎骨と動かない椎骨の間のくぼみが他に比べて一番大きいのも特徴です。
肩甲棘突起内端を結んだ線上が第三胸椎棘下縁になりますので、これも目安としてください。
3. 症状が悪化した場合、次の方法で改善します。どちらの方法でも結構です。
①右図の足背の第一から第五までの中足骨の間を指圧棒で押し込んでいきます。ここの痛さで風邪の状況がわかります。特に親指と人差し指の間は上気道、気管支の反射区で風邪の初期はここが痛いと思います。咳がひどくなると人差し指から小指の間が痛くなります。痛いところを時間をかけて揉みます。小さなお子様の場合も同様です。
②上腕部に呼吸器系の調整をするツボが並んでいる経絡があります。この経路のツボを押していきます。ピップエレキバンを貼っても有効です。
右図「尺沢」(肘関節前面上腕二頭筋腱の外縁)→ 風邪全般の症状改善
「孔最」(尺沢と太淵を結ぶ線の中点の指1本上方)→ 咳への対応
「列缺」れっけつ (両手の拇指と次指のまたを交差させ、示指の先端が当たるところのくぼみ) → 頭痛への対応
拇指の爪先で手首方向へ力を入れて押します。
「太淵」たいえん (手関節掌側横紋の橈側端、陷中)→ 風邪による倦怠感の除去
右図「曲池」 (肘を十分屈曲して、肘窩横紋外端の陥凹部)及びその変動穴(「曲池」より肩に向かって指1本強上(右図緑色の丸))→風を追い出す、風熱を引かせる、咳の症状を和らげる
4. 熱はあるが、発汗ができず、倦怠感が強い場合の対処です。風邪の初期によくある症状です。
右図「外関」(手首の関節の横紋中央から指2本)
腕を回外してとります。手首の関節の横紋中央から橈骨と尺骨の間を指を滑らせて指が止まるところです。位置的には範囲が広いツボで、押して一番ひびきが強い箇所に取ります。解表のツボと言われ、風熱を取り除く名穴です。爪で断ち切るように手首に向けて押してください。5回ぐらいゆっくり押し、さらに時間をおいて頻繁に押してください。ピップエレキバンを貼っても結構です。熱が下がり、倦怠感が改善していきます。
微熱っぽさが数週間続き、体が本調子ではなく、ドクターの診断は「未だ風邪が治っていない」という場合、お腹、下腹部、仙骨部分の内、1~2箇所に使い捨てカイロを貼り、体を温めてください。体が楽になります。
5. 鼻炎がひどい場合、次のツボを押してください。
右図「上星」 (手関節横紋を鼻の先端に当て、中指先端の当たるところ)
手拳の形で中指第二関節の先を使って、頭蓋骨の中心部に向かい強めに1分程度押します。
右図「飛揚」 (下腿後外側、腓腹筋外側頭下縁とアキレス腱との間、崑崙の上方、承山の外下方指一本強)
腓腹筋外側頭下縁になりますが、よほど筋肉が発達していないと腓腹筋外側頭下縁はよくわかりません。まず、「承山」(膝裏の横紋と外くるぶしの先端と同じ高さのアキレス腱を結んだ中間)を見つけ、その外下方指一本強を見つけた方がわかりやすいと思います。
水溶性の鼻汁が出る場合に効果的です。
鼻がつまったときの気功法です。
鵜沼先生が著書で紹介している「擦鼻法」という気功法です。
筆者自身も体験し、お勧めします。
①手のひらをこすり合わせあたためます。
②両手の親指を曲げ、第一関節と第二関節の間を鼻の両脇に当て、20~30回上下にこすります。一日数セット行います。水溶性の鼻汁の場合は、10セット以上行います。
鼻及び小鼻の両脇には「鼻通」(鼻の左右にあり、鼻を縦に長さを取ったときの真ん中にあるくぼみ)、「迎香」(鼻唇溝中(法令線上)、鼻翼(小鼻)外縁中点と同じ高さ)という鼻づまりによく効くツボがあります。
(本項の参考文献)
・鵜沼宏樹(2005)『症状を楽にする簡単気功レシピ』春秋社.
・鵜沼宏樹(2013)『自分でできるツボ療法入門』筑摩書房.
6. 咽喉が痛い時の対処です。
右図「魚際」(手掌、第一中手骨中点の橈側中央、赤白肉際陥凹部)
ここでの赤白肉際とは手掌と手背の境目です。その境目にくぼみがあります。
ピップエレキバンを貼っても結構ですが、激烈な痛みの時は円皮鍼を貼ることをお勧めします。セイリン(製造販売) パイオネックス(製品名) 0.6mm/イエローがお勧めです。通販サイトで購入できます。よく効きます。
7. 耳ツボで風邪を治す方法です。耳ツボは手軽に押せます。一日何回でも爪または指で押してください。
右図「上肺」 (耳甲介腔(耳の穴につながる大きなくぼみ)の中央を取り巻く上の方)
「気管」 (耳甲介腔(耳の穴につながる大きなくぼみ)の中央と外耳道との間)
「下肺」 かはい (耳甲介腔(耳の穴につながる大きなくぼみ)の中央を取り巻く下の方)
「咽喉」 (耳珠内側上方の1/2)
「外鼻」 (軟骨の付け根で中央)
「内鼻」 (耳珠内側下方の1/2)
耳珠の裏側の少し下、外鼻の真裏より外側且つ下になります。
「扁桃腺」 (耳垂中央の下方)
扁桃炎、咽頭炎に効きます。30~60秒間強めに押します。
8. 次に背面で治す方法です。まず首です。首のコリをとり、ごくひき始めの風邪を治します。 (次項の図を参照してください)
「風府」 (外後頭隆起下方(指二本弱)の陥中)
「風池」と同じ高さになります。
「天柱」 (盆のくぼの中央から指2本外側で僧帽筋腱の外縁陥凹部)
次の左右の「風池」を結んだ線より少し下側に位置します。「風池」を結んだ線には「上天柱」というツボがあり、「天柱」に劣らぬ効用があります。
首を後ろに倒し、首の重みを利用して右側は左手の(左側は右手の)中指で押さえた方が効きます。
「風池」 (僧帽筋腱(僧帽筋の起始部)と胸鎖乳突筋の間の陥凹部、後頭骨の骨際)
体の正中線より指3本弱外側に位置します。タオルを巻いて温めることも有効です。初期の風邪のときは、夜寝るときタオルを巻いてください。しかし、2、3日以上巻き続けると逆に鼻水が止まらなくなるようです。
ご家族に指圧をする場合は、仰向けになってもらって下から中指を使って行ったほうがツボに入ります。
9. 次に背中の上のほうのツボに移ります。
風邪の初期は「大杼」から「膏肓」までにコリがあります。
「大杼」 (第一、第二胸椎棘突起間脊柱の傍、指2本)
「風門」 (第二、第三胸椎棘突起間脊柱の傍、指2本)
「肺兪」 (第三、第四胸椎棘突起間脊柱の傍、指2本)
「厥陰兪」 けついんゆ (第四、第五胸椎棘突起間脊柱の傍、指2本)
「膏肓」 こうこう (第四、第五胸椎棘突起間脊柱の傍、指4本肩甲骨内縁、最も強い響きのあるところ)
これらは風邪が治るまで欠かせないツボです。こりがある場合は、そのこりが緩まるまで少し長めに指圧をしてください。なお、「肺兪」は左右の肩甲棘突起内端を結んだ線上を目安にしてください。
10. さらに風邪が進行するにつれ、
「膈兪」」(第七、第八胸椎棘突起間脊柱の傍、指2本)
「膈兪」は左右の肩甲骨下縁を結んだ線上を目安にしてください。
「気喘」 きぜん (膈兪の外上方の痛み、硬結があるところ)
咳が出だした時は特にこのツボが有効です。
11. 咳がひどい場合の対処です。次のどの方法でも結構です。
①項番3の足背の指の間
②項番3の「孔最」
③右図「神蔵」 (前胸部、第2肋間、正中線の外方指3本)
鎖骨の下にすぐ第1肋骨を触れ、その下にくぼんだ部分を触れます。最初のくぼんだ部分が第1肋間になります。その下が第2肋骨になります。「神蔵」は第2肋骨と第3肋骨の間に取ります。指圧をしてください。刺激を持続させるためにピップエレキバンを貼っても結構です。
第2肋骨は次の方法でも見つけられます。胸骨は、胸骨柄、胸骨体、剣状突起の三つの部位で形成されています。胸骨柄は最も上方にあり、上から指を下方へ滑らせると少し盛り上がって、小さい溝があるところに当たります。これが胸骨角です。胸骨角に第2肋骨が付着します。
「神蔵」だけでなく、その近辺、「神蔵」の隣、第1肋間、第3肋間も揉んでください。頻繁に且つ少し強めに押すのがコツです。
④右図「膻中」 (胸骨体の中央、両乳中穴を結び正中線と交わるところ、胸骨の正中で少し窪んだくぼんだところで按じて痛むところ、または、左右の脇の下を結んだ線の中点から真下の指4本)
「膻中」の下も探り、圧痛点を中指で軽く押します。または軽く回します。咳が出ているときにも軽く押します。症状が和らぎます。
12. 風邪が胃にくる場合があります。症状としては、吐き気、食欲不振です。その場合、右図左右の足裏青色の反射区を押すと激烈な痛みがあります。この反射区が有効です。
13. 痰がひどく、咳を頻繁にするという場合の対処です。
①右図「尺沢」 (肘前部、肘窩横紋上、上腕二頭筋腱外方の陥凹部)
10~15秒長押しします。2セット押してください。
②右図「豊隆」(膝蓋骨(ひざのお皿)の下縁と外踝の間を16等分した中央の高さで前脛骨筋(すねの外側に盛り上がる筋肉)の外縁)
膝蓋骨の下縁と外踝の間に手を広げ、中央を探ってください。足三里から指4+3本下を目安にしても結構です。足三里から足首の中央へ垂直におろした線よりも指1本外側になります。前脛骨筋は足を背屈した方が分かりやすいと思います。痰湿(体内に余分な水分が溜まり血脂が高い状態)除去の特攻穴で、「去痰(気管や気管支にたまった痰を除去すること)の要穴」とも呼ばれています。強い圧痛を探し、ピップエレキバンを貼り、時々押します。
14. 夏風邪への対処です。夏風邪はのどの痛み、腹痛・下痢といった症状が出ると言われています。
①予防としては項番1が必須です。風邪をひきやすい方は日常的に項番3の足背の第一から第五までの中足骨の間を指圧棒で押し込んでください。
②のどの痛み、嗄声(させい;しわがれ声のこと)への対処です。
・項番2の「合谷」を押しこんでください。
・右図「咽頭点」 (手の中指の掌指関節の薬指側)
あわせて斜線の部分「頸咽区」 (中指の付け根)を押し揉んでください。「合谷」、「咽頭点」とも、ピップエレキバンを貼ってください。
・右図「咽喉ゾーン」 (足の甲側・裏側、親指と人差し指の間)
付け根側も丹念に押し揉んでください。甲側はあまり強く押し揉むと皮下出血しますので注意してください。
・右図「臂臑」 (肩峰の外端で肘を上げると2つのくぼみが生じ、その前のくぼみより指4本下)
主に嗄声への対処です。上肢を下ろした場合は5横指、三角筋前縁にとります。ほぼ、前脇下横紋端の水平線上です。指4本下も含め、圧痛点を探ります。これもピップエレキバンを貼り、時折上から押してください。
③腹痛・下痢への対処です。
右図の足裏の腸の反射区への押圧です。まず、大腸の反射区で、右足から左足での数字の順番に押してください。2と3のラインはリスフラン関節の少し下方(但し、第四中足骨基底部では同関節の上方)、5のラインは内髁と外髁を結んだ線になります。つぎに小腸の反射区です。斜めの線のエリアを押し揉んでください。
右図「足の三里」 (膝の外側直下の小さなくぼみから指4本分下 )