医療費の増加を食い止めるには

ハーバード大学医学大学院のデビッド・A.シンクレア教授の著書「LIFESPAN-老いなき世界-」を読みました。老化を遅らせることの具体的な方法、その科学的な研究については本書を読んでいただくか、かなり難解なのでわかりやすく解説しているサイトもありますのでそちらを参照していただきたいと思います。ここでは次の点にふれたいと思います。

 

老化を遅らせれば、国レベルの医療費の増加を食い止めることができるのか

 

健康寿命の延伸で国の医療関連費が削減できるかと言うと、確認できる研究が十分に蓄積されていないというか、いろいろな意見、説があります。

 

この本にある長寿遺伝子を働かせる、老化を治療するということで医療費削減が可能だとしても、これを実現するとなると、社会的なコンセンサスを醸成し、いろいろな分野のイノベーションが必要になります。しかし、一般市民でも実現可能なレベルもあると思います。

 

シンクレア教授は著書で次のように述べています。

 

●老化を遅らせ、さらには若返りすら図れるようになれば、病気の重荷が全体として軽くなる。まさしく私(シンクレア教授)が訴えていることに他ならない。

個々の病気を治療するコストに比べれば、それを効果的に予防する長寿薬のコストなど微々たるものである。医療費危機に取り組むには大本の老化を解決するのが一番安上がりである。 

 

デイナ・ゴールドマン(南カリフォルニア大学/経済学者)の次の見解を引用しています。

・高齢化は経済にとって二重の打撃以外の何物でもない。病気になった成人は、金を生み出すことも社会に貢献することもやめるうえに、ただ生きるがために多額の医療費を必要とするようになるからである。

・だが、高齢者がもっと長く働けるようになったら、医療費を今より使わないとしたら、ボランティアや後進の指導や、他の何らかの奉仕活動というかたちで、社会に利益を還元できるとしたら、あくまで仮定の話ではあるが、健康な年月が長く延びることで大きな価値がもたらされ、経済面での打撃が緩和されるのではないか。そこでゴールドマンは計算をしてみることにした。

1つの病気を食い止めることに前進が見られても、いずれは代わりに別の病気が現われる。しかしながら、老化自体を遅らせれば、大きな後遺症を残す病気や命に関わる病気のリスクが、すべて一度に低下することがデータから示唆される

 

(参考文献)

デビッド・A.シンクレアほか(2020)『LIFESPAN-老いなき世界-』梶山あゆみ訳 東洋経済新報社.